初めてその行為に及んだその時。
ゴメンと謝った彼と。
大丈夫だと笑った彼。
もしあの時、あと僅かだけでも二人に意思の疎通が会ったのならば。
結果は、変わっていたのだろうか?
「・・・・・ぅあ・・・あ、あ・・・・」
無数の濃い褐色の触手に身動きも出来ずギチギチと縛り上げられ、
ポップはか細く啼き続ける。
服は残骸を残すだけとなり、白く肌理の細やかな肌は腕と足は勿論、体中すら幾つもの大小様々な触手に拘束され
座る事も寝る事も許されないままに天から吊るされ。
声を出すものかと言う矜持などは当の昔に消え果て、それでも最後のプライドからか己を吊るす触手の生えた天井を睨み付ける。
だが、そんな彼の小さなプライドも膨らみのない胸の先端を細い蔓の如き触手が動きを益せば塵となり消え果た。
「あぁぁっ!!い・・・やだ・・・・っやめ・・・!」
本来男であれば感じる筈のないこの場所でも、幾度となく男に抱かれてきた自分には十分に官能を引き出す部位で、
その官能を引き出し尚且つこの状況を齎した男を思いポップは何故だと小さく呟く。
尤もその声すら己の嬌声に紛れるだけなのだけれども。
どうしてなのだろう。
何が悪かったというのだろう。
自分達は何処で間違えたのだろう。
そんな想いが頭の片隅で時折聞えるのだけれど、それも胸の先端を弄る触手の動きが変わる度に掻き消えていく。
ヌラヌラとした粘液を全体から分泌しながら舐めるように先端だけを嬲られれば、触れられずとも射精出来そうなものだが、
千切れた服から垣間見えるポップ自身にはリボンの様な太さと平べったさを持った触手が張り付き、
鈴口には小さなゲル状の魔物が張り付いている為ソレすらも叶わない。
触手は高みへと追い上げもうダメだと限界を感じそうになる度動きを止める。
それを何度も繰り返されれば、欲望を吐き出す事も出来ず堪った熱は体中を動き回り。
熱をただ吐き出したいと、楽になりたいとそんな思いだけが意思を食い破り支配し始める。
だが。
「ひッ!!!!あ、ああああッッ!!」
ズルリと粘着質な音を立て背後に張り付いた一際大きな触手は平らな胸を抱える様に揉み上げ、
その太い触手から派生した細い触手が吸盤状になり胸の先端に吸い付けば、
今迄とは比べようもない快感にポップは仰け反り今までにない程の高さで啼いて暴れだした。
けれどしっかりと肌に張り付いた触手は暴れたくらいでそう易々と剥がれる筈もなく
それどころか逃がすまいと更なる責めを与える為に粘膜を放出しその蔦を動かしだす。
「・・・・・っ!!!あ、あ・・・・ッ・・・・」
胸を抱え弄っていた触手がその矛先を変えゆるゆると腰へと伸びる。
背後から腰骨へと伸びるその動きだけですら既に何度も達しそうになっていたポップには十分すぎるほどの快楽で。
小さな刺激だと言うのにも拘らず堪らなそうに甘い吐息を零す。
何処か頭の片隅で警鐘はなっていると言うのに抗う心は既に崩れかけて。
それよりも、可笑しくなりそうな熱をどうにかして欲しい思いの方がどんどんと強くなっていく。
下肢へと触手が伸びる様を視界に捕らえているというのに、それすら待ち遠しい。
太い平たい触手に巻かれている自身は立ち上がり、ゲル状の魔物が塞ぐ鈴口からは溢れ出した透明な雫が糸を曳き開放を訴え続ける。
早く触れて欲しい。そう思えてしまう程にはポップは限界だった。
尤も口に出しそれを希うにはまだ羞恥が勝るのだけれど。
それでも、肝心な部位には全く触れずジワジワと火照りだけを引き出すその動きに最早嬌声は止まらない。
早く、もう少し。
そう呟いてしまうそうになる唇を最後の理性で噛み締めて。
その瞬間。
ギィと古めかしい立て付けの悪い音を響かせ、窓もない薄暗いこの閉鎖的な部屋の唯一の扉が開かれた。
「・・・・凄くイイ格好だね。」
天井から吊るされたポップの様子に別段驚く事もなく。
寧ろクツリと口角を持ち上げ彼は鑑賞物を眺めるかの様にポップへと近付く。
そうして噛み締めた唇へと手を伸し触れれば強引に指を捻じ込み口内へと侵入させる。
「グッ!!!・・・・ッう、・・・」
突然の行為によって齎された嘔吐感にポップが苦しそうに身を捩れば、
その目元から滲んだ涙をもう片方の手で拭いながら彼は耳元に唇を寄せ酷く穏やかな声色で囁いた。
苦しいだろう?
辛いだろう?
可哀相に。
そう囁く声は優しいのにその目は相反する様に酷く冷たい。
繰り返された同じ質問にギリリと彼の指を噛み千切るほどの勢いで歯噛みすればポタリと伝う血の味と匂いに再び嘔吐感が込み上げる。
そんなポップの様子を変わらずに笑んだまま眺め、そうして漸く指を口から引き抜けば。
嫌悪感を如実に顕にするポップの頬へと己の血を擦り付け。
彼、ダイは目を細めて笑い出した。
「・・・っ!!!笑ってねぇでいい加減に放せ!!
こんなバカな事もうやめろっ!!!」
その何処か狂気じみた笑いにゾクリと身を震わせポップが裂けんでもダイの笑いは止まらない。
寧ろ腹を抱え幼子の様に笑う姿は、この場、その惨状でなかれば。
純粋に懐かしいとそう思えるものかもしれないものであるのに。
ほんの僅かな時間続いたダイの笑い声が収まれば。部屋はまたシンと静まり時折動く触手の卑猥な音だけが部屋中に小さく聞える。
そうして、ダイはただ愉快そうに目を細め。
口元に指を当て。
静かに微笑んだ。
「ダメだよ。
俺はポップを傷付けたくないけど、俺と同じくらい苦しい思いをして貰うって決めたんだから。」